昔の一人暮らしと電話

携帯電話が存在しなかった頃に田舎から東京に出て来た学生の良くある話として、こんな話があります。

ボロアパートに暮らす一人暮らしの貧乏学生が先月の親からの仕送りのお金を使い果たしてしまって、手元に残るのは10円玉が数枚だけになってしまい、その何十円かで食えるとすれば、明日の朝に近くのパン屋で三十円で売っているパンのミミの一袋だけなことに気が付きました。

そこで学生は「これじゃあさってから食って行けないから田舎のかあちゃんに電話して、送金してもらうしかねえべ」と思いました。
しかし電話で使えるのは10円だけです、20円使ってしまったらパンのミミも買えなくなってしまうからです。
公衆電話で10円で東北の田舎にかけたら、ほんの数秒しか話すことができません。しかし何とか送金して欲しいことを田舎の かあちゃん に伝えなくてはなりません。

学生は意を決して公衆電話に走りました。
公衆電話まで走ってきたので息がはずんで肩でハアハアと息をしている状態なので、そのまま電話をかけたのではうまく喋れないと思ったので深呼吸をして息を整えてから公衆電話の受話器を取って、なけなしの10円玉を入れました。
そして実家の番号を局番からダイヤルしました。

向こうの電話のベルが鳴る音が受話器から聞こえます、なかなか出ないなあと思っていたところで、田舎の かあちゃんがやっと出て「はい○○ですが」と言うか言わないうちに学生は大きな声で「ジニおぐれ!」っと一言だけ言ったところで、10円玉が電話機の中でチャリっと落ちる音がしたかと思うと無情にもガチャっと電話が切れてしまいました。
学生は、はたして田舎の かあちゃん が電話したのが俺だったことと、送金して欲しいと伝えたかったことを分かってくれたかどうかがとても心配でした。
翌日ちゃんと郵便貯金の口座には田舎の とうちゃん の名義でお金が振り替えで届いていたのでした。

ちなみに東北弁ではお金のことの銭(ぜに)が訛って「ジェニ」あるいは「ジニ」または一部の地方では「ジノ」と発音します。だから、あのような状況で実家に「ジニおぐれ!」なんて電話してくる奴は東京に行っている学生の息子以外にはいなかったのです。だから かあちゃん は学生の意図はその一言で分かったのです。

まあ、当時は振り込め詐欺なんて極悪非道に老人を騙す悪人なんて存在していませんでしたけどね。
それにしても携帯電話全盛のこの時代では考えられない風情のある貧乏学生の話ではありますよね。
当時の田舎から出て来た学生はほぼ皆が清く正しく清貧な生活をしていたのではないでしょうか。
今ならこんな場合は通話料がかからずタダで送信できる家族の携帯電話同士でのメールなんでしょうね。
まさに隔世の感がある話と言えるでしょう。

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